異世界作品で心をえぐられたい①

異世界もの…その単語で思い浮かべるのは「なろう小説」に代表されるチート・無双・ハーレム
あるいは、未知の世界でワクワクドキドキの大冒険
 
一方で、非常に現実世界を投影し、現実の皮肉(アイロニー)を多分に含んでいる異世界ものの
作品もあります。

異世界でチートで無双ハーレムなのもいいですが、たまには後者の皮肉を含んだ作品を読むのも面白いです。
 
そこで、今回はそういった一風変わった異世界ものの、おすすめの2つを紹介します。
 

 

 なぜ、銅の剣までしか売らないんですか?

 

なぜ銅の剣までしか売らないんですか?

なぜ銅の剣までしか売らないんですか?

  • 作者:エフ
  • 発売日: 2021/01/29
  • メディア: Kindle
 

あらすじは、

 商人見習いのマルが、自分の弟が勇者に選ばれたことを契機に世界の不合理なシステムを変えようと商人ギルド本部を目指して旅するという話です。

主人公が怒った不合理なシステムというのは、タイトルの「なぜ銅の剣までしか売らないのか?」とあるように、商人が自分たちの都合で売る武器を制限し、勇者の身を危険に晒していることです。

たしかに、RPGなどで最初街から強い武器を売ってくれば、勇者たちが身の危険に晒されることはないのに。
人命優先で、絶対に強い武器を売るべきと思うところでしょう。

しかも身内が危険に晒されれば、その不合理なシステムに本気で怒るのも無理ありません。


さて本の魅力を語る上で欠かせないのが、作者のエフさんがYotubeで運営している「 Fラン大学就職チャンネル」です。


Fラン大学就職チャンネルで投稿されている動画内容を簡単に説明すると、
経済・就職といった現代社会の風刺をエッジの効いたエンタメとして楽しませてくれるものです。

 

 
実際に、どんな動画なのか見てもらうのが早いです。
僕の好きな話の一つをもって、説明します。
 


路地裏情報ソース

 

動画の内容は、 路地裏の落書きにいちいち真に受けて落ち込むブラザーとの掛け合いです。

路地裏の落書きのようにネット掲示板の情報、SNSの情報は真偽不明でしっかりと信頼できる情報源や自分の頭で判断する力を持っていなければいけないのです。

 
しかし、信憑性がないと言われても、人はそういう情報に惑わされてしまうものです。

私自身も過去に、ネット情報の「集中力が上がるとか記憶力が上がるサプリ」とかを信じて、滅茶苦茶買っていました…今考えると本当に馬鹿ですね。

しかし、こういった動画を見ると自分を客観視でき、そういった真偽不明の情報に惑わされることが馬鹿らしくなってくるでしょう。

さて、このようなFさんらしい現代社会に対する鋭い風刺を、この本の随所で楽しむことができます。

 

例えば、

 

「私 は そんな 建前 の 話 を し て いる のでは ない。 商才 ある 者 たち が、 素人 を 煽動 し て 市場 に 参加 さ せ て 金 を 毟り 取っ て いる。 自己責任 なんて 言葉 は、そういう 不公平 への 免罪符 だ。 その 相場 が 誰 にとって も 公平 だっ た と、 胸 を 張っ て 言える かい?   一部 の 人間 しか 入手 し 得 ない 情報 は なかっ た かい?   恣意的 な 相場 の 操作 は?」

 
チューリップ相場で大儲けした主人公に対して、店主が怒る場面です。

店主の言うように、市場のプロによって素人が煽動され不幸な末路を辿ることは歴史上繰り返されてきました。

作品内でも、貧乏な家庭から抜け出すためにチューリップを買っていた兄妹が、チューリップ相場の暴落によって悲惨な末路を迎える描写があります。

兄妹たちのような不幸な人は本当に自己責任で片付けていいのか…
 
一方で主人公の考えも共感出来ます。

親 を 助け たい?   馬鹿 言う な。 人 を 助ける っていう のは、 もっと 真面目 で、 現実的 な 行動 の 積み重ね な ん だ。 親 を 盾 に 無謀 な 行動 を 正当 化 する な。 俺 は 貧乏人 の そういう 愚か さを 見る のが 嫌 な ん だ。 奪わ れる べく し て 奪わ れる 様子 を 見る のが。あの 兄妹 は 賭博 に 負け た あと、 今度 は 被害者 の よう な 顔 を する ん だろ う。 自分 が し た 選択 の 結果 なのに。…… 俺 は そんな 奴ら を「 かわいそう」 だ とか「 気の毒 だ」 なんて 思っ て やっ たり し ない からな。

市場が弱肉強食であることは変わらない事実であり、己の力で搾取されないように知識をしっかりとつけ、自分の頭で考える力をつけていかなければいけない。

主人公も貧しいところから這い上がってくるきたので、ただ搾取されるだけの兄妹に同情が沸かなかったのでしょう。

この議論は、本当に難しいところがあると思います。
私は話のモチーフとなったチューリップバブルというものも初めて知ったぐらい無知なので…
 
でも、これを契機に色々と考えて学んでいきたいという気持ちになりました。

次は、奴隷ビジネスで出世している男の描写ですが、数々のブラック企業を描いてきたFさんの筆致が光る描写だと思います。
 

この 男 が 奴隷 監督 長 という 地位 に いる のは、 強引 さや 自己中心性 に 裏打ち さ れ た 行動 力 と、 極端 に 共感 性 の 欠如 し た ご 立派 な 人格 が ある から だ。 下手 し たら 使役 さ れ て いる モグラ たち よりも 頭 が 悪い かも しれ ない 大男 が、 この 環境 下 では 最も 優れ た 個体 で、 ヒエラルキー の 頂点 なの だ。 適材適所 の 例 と 言える だろ う。

 

こういう他人の痛みに共感性がなく、強引なやり口で結果を出し評価され出世しているブラック企業の上司が思い浮かびゾッとします。
 
さて、ここまで述べてきたFさん味が感じられる描写が多々あり、旅の果てまで行き着いた主人公が結局どういう結論を出すのかというのを含めて、ぜひ本を手に取って楽しんでください。

 

 ちなみに動画で本を刊行するまでの話もされています。


【悲報】Fラン大学就職チャンネル 本が出る【令和小説大賞】

 
ぼくは、担当編集者との下りが好きでしたw
 

 2犬と魔法のファンタジー

 

犬と魔法のファンタジー (ガガガ文庫)

犬と魔法のファンタジー (ガガガ文庫)

 

 

1のFさんといえば、就活ネタで見る人の胸をえぐってくる動画ですが。
前述の「なぜ、銅の剣までなぜ、銅の剣までしか売らないんですか?」には、残念ながら就活ネタはありません。
(間接に表現しているところはあるかもしれません)
 
そこで、異世界もののなかでも「就活ネタ」で胸をえぐられたいという人におすすめの作品が犬と魔法のファンタジー」になります。
タイトルからは全く想像できませんが、就活を扱った話になります。

あらすじは、
容領が悪く、口下手な主人公が就職氷河期のなかで苦労しするなかで、
どのような道を歩むかをファンタジー世界で表した作品となります。
 
著者は、 田中ロミオ 先生。元々『CROSS†CHANNEL』といった独特の筆致で人気のある18禁ゲーのライターさんで、ラノベでもアニメ化もされた「人類は衰退しました」といった代表作があります。

そういった実力と実績のある作家さんであるので、本書も中々鋭い表現と、就活を巧みな言葉で皮肉ったギャグも見所となっています。
まず、就活の皮肉ギャグでおすすめなのを
「落選 する と 商社 から 書簡 か 伝書 が 届く。 それ には 概ね こんなことが書いて
ある。貴様は最高の人材、だ が 雇わ ぬ。 貴様 の 将来 に 幸 あれ かし」
「喧嘩 を 売ら れ て いる という こと か?」
 
いわゆるお祈りメールの皮肉ギャグです。あの何とも言えないムカつき具合を非常に上手く表現しています。
 
 一方で、なかなか心をえぐる表現もあります。
 
「違う…… 違う ぞ キルア よ!ともに 海 に 行こ う が、
貴様は奴らと同じにはなれ ん…… あとで 惨めになるだけだと、
なぜ わから ん……!」
チタンの言葉 は、すでに小さな背中となってしまった盟友には届かなかった。
 
何回もお祈りメールをもらい、精神的に疲れてしまった就活仲間が就活を諦め
楽しそうに海に遊びにいこうとする後輩に混ざろうとする場面です。

本当に就活の辛い現実に晒されるなかで、もう嫌になり
きらびやかな楽園に逃げてしまうという気持ちはよく分かります。
 
主人公が言うように、快楽は一瞬だけで後で激しい後悔地獄に襲われるんですけどね。
 
 

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その脱落していく仲間を見て、主人公にも心の揺らぎが表れます。
 
「留年…… か」   悪く は ない かも 知れ ない。 ルター や ロ エル も まだ いる よう だ し、 就活 も やり直せる。 一年 社会 に 出る のが 遅れる こと くらい、 どう という こと は ない はず だ。   そう。   今年 の 経験 を 活かせ ば、 来年 は もっと まし な 就活 も できる はず だ。  また 一年、 あれ を?   心 を 黒い 水 が 浸し た 気 が し た。なぜ だ、 なぜ 苦しい?   たかが 就職 の こと くらいで、 なぜ?
 
留年すれば、就活から逃げられる。しかし、その先に何があるのは
もう一年この地獄を味わなければいけないという現実です。
 
さてここで私が、この本を読んだときの状況を踏まえて総括として述べさせていただきます。

読んだ当時ニートでした。主人公たちとは、全然違う境遇にいました。
 
それでも、心に来るものがあったと覚えています。

社会に出る厳しさを思い浮かべて鬱になったのかもしれません。

まあ、その後就活をして毎回お祈りをくらって、主人公と同じ気持ちになりましたね(泣)

 一方で、最後に主人公が苦悩のなかで答えを見つけ出すなど胸が熱くなる
展開もあり非常におすすめ出来る作品なので、ぜひ本を手に取って楽しんでください。
 

 3最後に


今回紹介した作品二つはFランチャンネル好きな人はもちろん、毛色の違ったファンタジーを楽しみたいという人におすすめの作品になったと思います。


題名に①とついているように、まだまだ心をえぐってくる作品はあると思いますので

今後もどんどん紹介していきたいと思います。

 
PS.
この記事を書くにあたって、久しぶりに本を読みました。

ニート時代には毎週10冊以上読むときもありましたが、社会人になってから全く本を読んでおりません…

本当に読書する集中力が欠如していることに気づかされました。
リハビリ、頑張っていきたいと思います…