異世界作品で心をえぐられたい①
あるいは、未知の世界でワクワクドキドキの大冒険
異世界でチートで無双ハーレムなのもいいですが、たまには後者の皮肉を含んだ作品を読むのも面白いです。
1なぜ、銅の剣までしか売らないんですか?
あらすじは、
商人見習いのマルが、自分の弟が勇者に選ばれたことを契機に世界の不合理なシステムを変えようと商人ギルド本部を目指して旅するという話です。
主人公が怒った不合理なシステムというのは、タイトルの「なぜ銅の剣までしか売らないのか?」とあるように、商人が自分たちの都合で売る武器を制限し、勇者の身を危険に晒していることです。
たしかに、RPGなどで最初街から強い武器を売ってくれば、勇者たちが身の危険に晒されることはないのに。
人命優先で、絶対に強い武器を売るべきと思うところでしょう。
しかも身内が危険に晒されれば、その不合理なシステムに本気で怒るのも無理ありません。
さて本の魅力を語る上で欠かせないのが、作者のエフさんがYotubeで運営している「 Fラン大学就職チャンネル」です。
実際に、どんな動画なのか見てもらうのが早いです。
僕の好きな話の一つをもって、説明します。
動画の内容は、 路地裏の落書きにいちいち真に受けて落ち込むブラザーとの掛け合いです。
路地裏の落書きのようにネット掲示板の情報、SNSの情報は真偽不明でしっかりと信頼できる情報源や自分の頭で判断する力を持っていなければいけないのです。
しかし、信憑性がないと言われても、人はそういう情報に惑わされてしまうものです。
私自身も過去に、ネット情報の「集中力が上がるとか記憶力が上がるサプリ」とかを信じて、滅茶苦茶買っていました…今考えると本当に馬鹿ですね。
しかし、こういった動画を見ると自分を客観視でき、そういった真偽不明の情報に惑わされることが馬鹿らしくなってくるでしょう。
さて、このようなFさんらしい現代社会に対する鋭い風刺を、この本の随所で楽しむことができます。
例えば、
「私 は そんな 建前 の 話 を し て いる のでは ない。 商才 ある 者 たち が、 素人 を 煽動 し て 市場 に 参加 さ せ て 金 を 毟り 取っ て いる。 自己責任 なんて 言葉 は、そういう 不公平 への 免罪符 だ。 その 相場 が 誰 にとって も 公平 だっ た と、 胸 を 張っ て 言える かい? 一部 の 人間 しか 入手 し 得 ない 情報 は なかっ た かい? 恣意的 な 相場 の 操作 は?」
店主の言うように、市場のプロによって素人が煽動され不幸な末路を辿ることは歴史上繰り返されてきました。
作品内でも、貧乏な家庭から抜け出すためにチューリップを買っていた兄妹が、チューリップ相場の暴落によって悲惨な末路を迎える描写があります。
兄妹たちのような不幸な人は本当に自己責任で片付けていいのか…
親 を 助け たい? 馬鹿 言う な。 人 を 助ける っていう のは、 もっと 真面目 で、 現実的 な 行動 の 積み重ね な ん だ。 親 を 盾 に 無謀 な 行動 を 正当 化 する な。 俺 は 貧乏人 の そういう 愚か さを 見る のが 嫌 な ん だ。 奪わ れる べく し て 奪わ れる 様子 を 見る のが。あの 兄妹 は 賭博 に 負け た あと、 今度 は 被害者 の よう な 顔 を する ん だろ う。 自分 が し た 選択 の 結果 なのに。…… 俺 は そんな 奴ら を「 かわいそう」 だ とか「 気の毒 だ」 なんて 思っ て やっ たり し ない からな。
市場が弱肉強食であることは変わらない事実であり、己の力で搾取されないように知識をしっかりとつけ、自分の頭で考える力をつけていかなければいけない。
主人公も貧しいところから這い上がってくるきたので、ただ搾取されるだけの兄妹に同情が沸かなかったのでしょう。
この議論は、本当に難しいところがあると思います。
次は、奴隷ビジネスで出世している男の描写ですが、数々のブラック企業を描いてきたFさんの筆致が光る描写だと思います。
この 男 が 奴隷 監督 長 という 地位 に いる のは、 強引 さや 自己中心性 に 裏打ち さ れ た 行動 力 と、 極端 に 共感 性 の 欠如 し た ご 立派 な 人格 が ある から だ。 下手 し たら 使役 さ れ て いる モグラ たち よりも 頭 が 悪い かも しれ ない 大男 が、 この 環境 下 では 最も 優れ た 個体 で、 ヒエラルキー の 頂点 なの だ。 適材適所 の 例 と 言える だろ う。
2犬と魔法のファンタジー
(間接に表現しているところはあるかもしれません)
あらすじは、
容領が悪く、口下手な主人公が就職氷河期のなかで苦労しするなかで、
どのような道を歩むかをファンタジー世界で表した作品となります。
そういった実力と実績のある作家さんであるので、本書も中々鋭い表現と、就活を巧みな言葉で皮肉ったギャグも見所となっています。
ある。貴様は最高の人材、だ が 雇わ ぬ。 貴様 の 将来 に 幸 あれ かし」
「喧嘩 を 売ら れ て いる という こと か?」
貴様は奴らと同じにはなれ ん…… あとで 惨めになるだけだと、
なぜ わから ん……!」
チタンの言葉 は、すでに小さな背中となってしまった盟友には届かなかった。
楽しそうに海に遊びにいこうとする後輩に混ざろうとする場面です。
本当に就活の辛い現実に晒されるなかで、もう嫌になり
きらびやかな楽園に逃げてしまうという気持ちはよく分かります。
留年すれば、就活から逃げられる。しかし、その先に何があるのは
社会に出る厳しさを思い浮かべて鬱になったのかもしれません。
まあ、その後就活をして毎回お祈りをくらって、主人公と同じ気持ちになりましたね(泣)
3最後に
今回紹介した作品二つはFランチャンネル好きな人はもちろん、毛色の違ったファンタジーを楽しみたいという人におすすめの作品になったと思います。
題名に①とついているように、まだまだ心をえぐってくる作品はあると思いますので
今後もどんどん紹介していきたいと思います。
ニート時代には毎週10冊以上読むときもありましたが、社会人になってから全く本を読んでおりません…
本当に読書する集中力が欠如していることに気づかされました。